医療関係者の方へ
デイホスピタルでは、
メンバーが主体的に活動し、
様々な対処法を獲得することで、
メンバーが社会に踏み出す自信と
継続力を養い、
リカバリーを支援しています。
DHとは
東京大学医学部附属病院リハビリテーション部精神科デイホスピタル(DH)は、厚生労働省の認可を受けた大規模デイケア施設です。東大病院精神科に通院中でリカバリーや社会復帰を目指す当事者の方を対象としています。つまり、心の不調により生活に不自由を感じている方で、学校や仕事など社会に出ていきたいがまだ自信を持てなかったり他人とのコミュニケーションがうまくできずに悩んでいる方が対象となります。
年齢や利用期間、対象となる疾患に制限はありませんが、10‐20歳代が大部分を占め、統合失調症の方が多いです(他に、気分障害、不安神経症、てんかんの方など)。常時30-40人の方が利用されており、平均2-3年の通所を経てリハビリテーションが進み、就労・就学などのご自身の目標を達成したらDHを卒業して次の目標へとステップアップとなります。
利用者の概要
- 対象疾患
- 統合失調症(8割)、気分障害、てんかんなど
- 平均年齢
- 約25歳(18〜38歳)
- 在籍人数
- 30名(2019.06.現在)
- 平均出席率
- 約70%
- 卒業率(目標を達成してステップアップされた方の割合)
- 約60%
目的
- 役割の達成と仲間入りの体験をする
- 自己効力感を高めて、自信の回復を図る
- 症状の改善と安定
- 人格成長
- 生活技能の向上
- 再発状況や援助方法を明らかにする
- 就労や就学への援助
- ご家族の協力と支援体制
- 地域社会資源との連携
沿革
年月 | 出来事 |
---|---|
1974年1月 | デイホスピタル開設 |
1975年 | 生活臨床の導入 |
1976年 | 治療共同体の導入 |
1977年 | 実行委員会方式の定着 |
家族会結成(現 東大いちょうの会) | |
1979年 | DH委員方式の確立 |
1983年 | プログラムとして軽作業の導入 |
1988年4月 | 生活技能訓練(SST : Social Skills Training)の導入 |
1989年4月 | 研修生制度の発足(現 精神保健・臨床心理デイケア研修プログラム) |
1991年 | 就労準備グループの導入(後年、現 就労準備プログラムに発展) |
1996年 | 家族会100回記念式典 |
1999年11月 | 家族心理教室の開始 |
2001年4月 | 日本版SILS自立生活技能プログラム(症状自己管理モジュール)の導入 |
2002年4月 | 精神神経科からリハビリテーション部へ所属を移行 |
2013年 | メタ認知トレーニングの導入 |
2014年 | DH創立40周年記念式典を実施 |
2018年4月 | IMR・疾病管理とリカバリー (Illness Management and Recovery)の導入 |
創立40周年を迎えました
2014年1月に皆様のお力添えもあり、DHは創立40周年を迎えました。それを祝して12月18日に文京区民センターにて記念式典を開催させていただきました。準備は、DHらしく、実行委員を中心に様々な係に分かれ、メンバー・スタッフともに心をこめて行いました。
当日は、OBメンバー、今まで勤務された医師や医療スタッフ・研修生、東大いちょうの会(家族会)、近隣の連携機関・支援施設など多方面から来賓の皆様にお越しいただき、総勢約100名で盛大に開催いたしました。手作りの飾りつけや食事、DHの歴史にまつわるビンゴ大会など終始温かい雰囲気で進み、あっという間に終了になりました。
伝統のあるDHも大事にしつつ、より一層メンバーのリカバリーを促進できるよう、メンバー・スタッフともに歩んで行きたいと思います。
今後共どうぞよろしくお願いします。
第1回ベストプラクティス賞を受賞いたしました
2008年に開催された第16回日本精神障害者リハビリテーション学会東京大会にて第1回ベストプラクティス賞をいただきました。
ベストプラクティス賞は、わが国の精神保健医療福祉の現状を踏まえ、精神障害者リハビリテーションのあるべき姿を展望し、それに到達するための評価基準を満たした「モデルとなる実践」を呈示することで、実践の質の向上を図ることを目的とし、精神障害者リハビリテーション学会で応募団体の中から審査をされて与えられる賞です。2008年、記念すべき第1回に受賞いたしました。
結果を真摯に受け止め、今後もDH利用者や精神障害者のリハビリテーションのモデルとなれるよう、日々精進していきたいと思います。
さらに詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧下さい。
デイホスピタルでのリハビリテーションとは
東大デイホスピタルでおこなうリハビリテーションの特徴
① メンバー主導のプログラム運営
誰でも参加しやすい簡単な単一プログラムを集団療法の手段と位置づけ、実行委員会方式と呼ばれる委員会活動により、活動・役割・責任を遂行して自己効力感を回復する仕組みにしています。そのため、プログラムの運営はメンバーが主体的に行い、スタッフは非指示的に黒子的なサポートをしています。
DHの集団生活場面は“保護されたミニ社会"といわれ、社会に近い構造の中で、起こったことはすべて治療的に扱います。そのメンバーが社会に出たときに直面する課題の多くはDHの集団場面でも起こります。それを担当スタッフとの個人面談を通して、自己の気づきと理解を深め、自己対処能力を高めていきます。
② 生活臨床にもとづいたケースマネジメント
DHでは導入から卒業後まで基本的には同じ医療スタッフが担当し、ケースマネジメントには生活臨床の考え方を採用しています。インテーク面接やDHの集団場面の言動から、社会生活に現れる生活上のクセ(=生活特性)を評価し、リハビリの目標設定や治療方針、対応の指針を立てています。
共通の理論を用いることで、バックグラウンドがさまざまな多職種チーム医療の中で共通概念が抱きやすく、円滑にリハビリを進められていると実感しています。
生活臨床って?
生活臨床とは、1960年代に群馬大学医学部で体系化された実学的な概念です。集団生活場面での個人の経験が個人面接場面で話され、個人面接場面で整理されたことを集団生活場面で生かすという相補的関係にあります。集団生活場面は病棟の生活でも、デイケアの生活でも職場や学校などの社会生活場面でもよいとされています。個人が面接場面で成長すること以上に、集団生活場面で成長することを期待しています。
その方がどのような生活をされてきたか(≒生活歴)、どんな人生を歩みたかったか(希望・夢)などさまざまな視点から情報収集し、どんな方なのかをより理解するために下記の生活特性や類型のアセスメントをします。
生活特性は、生活類型・生活特徴に分類されます。
能動型 | 自ら変化と枠の拡大を作り出そうとする |
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受動型 | 生活を現状の枠に安住しがちで、自分から変化を作り出そうとしない |
非特異的生活特徴 | 共通して見られやすい特徴で、社会適応がよくなるに従って目立たなくなる 例 名目・世間体・評価に敏感である、一面的に物事を捉えやすいなど |
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特異的生活特徴 | その人の人生に対する志向性と関連が強く生活の発展や破綻に密接に結びついている課題。 『アスピレーション』に近い概念。自尊心、異性関係、お金の損得などが多い。 個人によって異なり、多くの場合は変化しない。 |
他者依存型 | 周囲の意見を尊重するタイプ。治療者との間で最終的には具体的断定的な結論を出すことが望ましい。 |
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自己啓発型 | 試行錯誤しながら下した自分の判断を重視するタイプ。治療者との間で結論に至らず、本人に最終判断は委ねることが望ましい。 |
③ CBTや心理教育による対処スキル獲得
主に火曜午後のプログラムにおいて、CBTや心理教育の手法を用いた集団療法のプログラムを実施しています。メンバーは自身のリハビリの目標や進み具合に合わせて、希望するプログラムを選んで参加します。
できるだけDH利用中に各プログラムに参加することを推奨しています。
プログラム名 | 内容 |
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基本訓練モデルのSST | 参加者一人一人が個別に目標を立て、ニーズに合わせた日常生活に必要な対人スキルを獲得するプログラム。必要に応じてビデオフィードバックを取り入れている。 |
IMR・疾病管理とリカバリー | IMR・疾病管理とリカバリー(Illness Management and Recovery)を実施。精神疾患を管理する方法を学び、個々人のリカバリー目標を達成することを目的とする。 |
メタ認知トレーニング (MCT) |
統合失調症の基盤となる考え方のくせを学ぶプログラム。 考え方のくせについて情報提供を行い、気づきの促し、参加者同士のディスカッションを通して他者の視点からも学ぶことを目的とする。 |
就労準備プログラム | 履歴書の書き方や面接の受け方など就労に関する情報を知り、OBの体験談や外部支援者の講演を通して就労に対するイメージアップを図るプログラム。後半には就労した後に役立つ対人スキルとして、共通課題方式のSSTも実施。 |
家族支援
メンバーのリカバリーを進める上でご家族の存在はとても大きく、共にメンバーを支援する立場として連携させて頂いております。また、ご家族自身が健康でゆとりのある生活をしていただくため、またご家族同士の繋がりを作っていただく場として、家族心理教室をDH利用中または利用予定の方のご家族を対象に実施しております。
就労・就学支援
DHでは卒業後の支援にも力をいれております。担当スタッフが本人の希望する行き先に合わせた支援を実施しており、さまざまな支援機関と連携しています。アウトリーチ支援を積極的に取り入れて、メンバーが安心して地域生活を営めるよう、地域での支援ネットワーク作りや無理のない支援機関の移行を進めています。卒業生の転帰は下記の図の通りで、メンバーがこれから送りたい人生の目標に少しでも近づけるように、ご家族や主治医とともに支援していきます。
卒業後の支援のためのネットワーク
また、ユースメンタルヘルス講座と共同で、精神障がい者を雇用されている企業向けに接し方のコツをまとめた『精神障がいの方との接し方-精神障がいをもつ人の雇用にあたって-』を作成しました。DHと連携している企業の方にも協力していただき、現在も参考資料として使用しています。
研究活動
開設当初より、生活臨床や実行委員会方式など臨床プログラムに関する研究を積極的に実施してまいりました。近年では精神障害者リハビリテーション学会やSST普及協会学術集会、統合失調症学会を中心に実践報告や事例報告を定期的に行っています。
現在行われている研究活動は主に以下の通りです。
01 臨床情報に基づく後方視的研究
当院では日常の診療で得られた臨床情報を元に、精神疾患の性質・経過・予後などを分析します。また、デイホスピタルで行われる心理社会的治療の効果などを研究します。将来的により良い心理社会的治療法を開発し、精神医学・精神科リハビリテーションの発展に寄与することを目的とします。
【精神科デイホスピタルでのリハビリテーションに関する後ろ向きの疫学的研究】(審査番号2893)
02 DHでのリハビリテーションの効果検討
デイホスピタルでの治療を通して、多くの思春期・青年期の精神疾患当事者がリカバリーされています。その過程で心理的あるいは社会的にどのような成長・変化を獲得するかを調査します。
【デイホスピタルにおける心理社会的介入が予後に及ぼす効果の検討】(審査番号11697)
03 生活臨床における新たな尺度作成
当院では生活臨床の技法を基にして社会に向けての行動に結びつく個人の特性を反映する尺度(共同創造型ー生活・人生態度尺度)を作成し、その信頼性と妥当性を検証する研究を行います。
【生活臨床における生活類型・生活特徴の尺度作成と信頼性・妥当性の検討】(審査番号11884)
04 DH利用の長期転帰調査
精神科デイホスピタル(DH)は1974年に開所し、2024年には開所50周年を迎えます。この節目に向けて、DHを利用された皆さまにアンケート調査をお願いさせていただきます。DHの利用を終えたあとの生活についてお伺いすることで、DHのあり方を振り返るとともに、現在利用中のメンバーとともに自分らしい未来について考えていくきっかけにできればと考えております。【精神科デイホスピタルの長期的転帰調査】(審査番号2023020NI)
詳細はこちらをご覧ください:研究説明文書.pdf
※具体的にお願いすること※
DHと関わりのあるみなさまに、デイホスピタルよりアンケート用紙の入った封筒を順次お渡しして参ります。所要時間は5-10分程度です。ご協力のほどよろしくお願いいたします。(回答したくない場合は、そのまま封筒を捨てていただいて結構です)
05 生物学的研究との連携
デイホスピタルでは精神神経科に協力して、統合失調症の当事者を対象とした脳画像などのバイオマーカー研究や臨床治験などの生物学的な研究も行っています。
- 健常者および精神神経疾患患者における脳MRIと認知機能の関係(397)
- 磁気共鳴機能画像法(functional-Magnetic Resonance Imaging)による精神機能の脳基盤の研究(1350)
- 精神疾患における近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)を用いた脳機能検査法の開発(630)
- 精神疾患における認知機能障害と神経心理学的指標・生理指標との関連について(629)
- 血液・唾液中のタンパク・アミノ酸解析による精神神経疾患の成因に関する基礎的研究(2094)
- 精神病前駆期・初発精神病の早期介入に資するバイオマーカーの探索的研究(2226)
- ゲノム解析による精神疾患の分子遺伝学的研究(2089)
- 精神疾患発症にかかわる関連遺伝子の探索および解析(639)
- 磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)で得られた脳画像と臨床評価尺度のデータベース構築と多施設による共同運用(3150)
- 初回エピソード精神病状態およびそのリスク状態に対する包括的な早期支援・治療に関する多施設共同ランダム化比較研究(3307)
- 統合失調症患者に対するベタイン投与の探索的試験(P2014062-11X)
- 統合失調症スペクトラム障害における心理社会的予後因子の検討:多施設共同研究(10892)
施設見学希望の方へ
※現時点での見学については、COVID感染症時期における東大デイホスピタル利用についてをご参照ください。
医療・福祉関係者や学生を対象に、見学の受け入れを行っています。
ご希望の方は、事前にデイホスピタルまでお電話でご連絡ください。
ご希望の日程がある際には、その際にお申し出ください。
原則、見学予定日の3週間前までにご連絡ください。
Tel: 03-3815-5411 (内線 33620 / 38903 )
見学までの流れ
- 上記連絡先にご連絡いただきお申し込みいただきます。
-
『見学許可願』を提出していただきます。
下記フォーマットに必要事項ご記入の上、下記宛先に郵送にて送付し提出してください。原則見学予定日の2週間前まで到着するようにお願いいたします。
- 郵送先
- 〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1
東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部 精神科デイホスピタル宛
- 『見学の受入れに関する内規』をお読みになって見学に臨んでください。
参考文献
参考文献
- 宮内勝 『精神科デイケアマニュアル』金剛出版 東京 1994
- 東大生活技能訓練研究会 『わかりやすい生活技能訓練』 金剛出版 東京 1995
- 宮内勝 『分裂病と個人面接』金剛出版 東京 1996
- 伊勢田尭・小川一夫・長谷川憲一編 『生活臨床の基本』日本評論社 東京 2012